神玉遊戯
闇明かり 5
子どもが、鬼灯を持たないほうの手を六太のほうに突き出す。
小さな指に、ぴしりと黄金の光がひらめいた。
(――ああ、そうか……)
それを見た瞬間、優希は子どもが誰に似ているかを了解した。
そして、この子の帰る先も、その者なら解決してくれるという確信を得る。
『ぬお、おいらぁ…』
六太がゆっくりと瞬いて、自分の手を見つめ、首をかしげている。怒りの色は、いつの間にか消えていた。
『…そだなぁ、お前、人間だっただなぁ』
しみじみと、幾分か沈んだ様子で、六太が呟く。
優希は静かに応えた。
「うん、六太。俺は、人間だよ。夜行に来てるけど、六太や皆ともこうして話すけれど、人間だよ」
『すっかり忘れとったなぁ…。わらべ、お前…いい奴だから、人間だって事忘れとったなぁ』
六太の声が、海鳴りのように低くやさしく届く。
それは、優希にとってはもったいないほどのほめ言葉だった。
「ごめん、俺、人間なんだ。だから……なんとか六太や皆が暮らせる場所を、残せるようにするよ。俺は、人間だから、人間に声が届くんだ」
六太が背を丸くして項垂れる。
『頼むでのぅ…』
小さく小さく、人が話すほどの声で、六太は言う。
それから、のそのそと歩き出していった。
一部始終を見守っていたものたちも、ほっとした様子で各々夜行の列へ戻っていく。
祭囃子のようなざわめきが、再び沸き出始めた。
優希もようやく、肩の力を抜くことができた。
「さて、俺たちもそろそろ…」
言いかけて、優希はぎょっとする。
彼の足元で、子どもが、糸の切れた人形のように座り込んでいた。
「大丈夫? どこか苦しいの?」
気遣わしげに覗き込むと、子どもは、涙やら泣きたいのやらを精一杯我慢しているようで、顔を真っ赤にしていた。
本当は、怖くて仕方がなかったのだ。
泣き出してしまいそうだった。
それでも必死で、優希を守ったのだ。
(自分が一番危ない役回りを取るとこなんて、今とそっくりだ――)
優希は微笑んで、子どもの頭を撫でてやった。
「ありがとう」
「…、……っ」
緊張が完全に解けたのか。子どもの目じりから、こらえ切れなくなった涙が、ぽろぽろと零れ落ちる。
「大丈夫だよ、俺は怪我してない。もう怖くないし、危なくないよ」
優希は何度も頭を撫でて言い聞かせるが、子どもは一向に泣き止まなかった。
とりあえず、この子を、百鬼夜行の先へ連れて行きたい。
優希の待ち合わせ場所でもあるし、この子どもの帰り先もありそうだ。
どうしたものか。
いっそ、抱きかかえていってしまおうか。
(……でも何かなぁ、バレた時に怖いような…)
その時、ポケットの中でからりと音がした。キャラメルのぶつかる音だ。
優希の頭に、ぱっとひらめくものがある。
彼はキャラメルを取り出すと、子どもの前に差し出した。
泣きじゃくりながらも、子どもは、柔らかな色合いの四角いものに、興味を示す。
「強くなれるおまじないだよ」
「…?」
首をかしげる子どもの前で、優希はにっこりと笑って見せた。
「これを食べたら、もうちょっとくらいじゃ泣かないんだ」
「……」
子どもの目が輝く。やはり男の子は、強くなりたいものらしい。
キャラメルを口に入れてすぐ、その表情に晴れ間が見えた。
優希が「立てるか」と聞く前に、子どもは鬼灯を片手に立ち上がる。
もう心配は要らなかった。
「行こうか。きっと、皆先に行って待ってるから」
優希は子どもの手を引いて歩き出す。
子どもも、鬼灯の明かりで道を照らそうと、歩きながら必死に手を伸ばしていた。