神玉遊戯
闇明かり 4
考え込む優希の隣で、子どもが鬼灯をじいっと見つめている。
しばらく後、意を決したように手を伸ばして、鮮やかな朱色の袋に触れた。
鬼灯が揺れ、その瞬間だけ明るさが増す。
思わず手を引っ込めてしまった子どもだが、光が落ち着くと、もう一度手を伸ばして鬼灯に触る。
と、また光が強くなる。
新しい遊びでも見つけたかのように、子どもは何度もそれを繰り返した。
なんとも微笑ましい様子に、優希は自分が困っていたことを束の間忘れる。
「これが気になる?」
優希が訊くと、子どもは少し躊躇ったように視線をそらしたが、すぐに小さく頷いた。
「それじゃ、持ってみようか」>br>
優希は鬼灯をつぶさないように、両手で支えるようにして袋の部分を持った。
細い茎が、子どものほうに向く。
子どもの目が熱心に鬼灯を観察し、まだ紅葉のように小さな手がおずおずと進み出て、しっかりと茎を握り締めた。
その時。
『おんやぁ…』
「――っ…!」
のんびりとした野太い声が頭上から降ってきた。
優希が反射的に立ち上がるのと、彼の腰辺りに子どもがしがみついてくるのとは、ほぼ同時だった。
見ると、ぼさぼさ髪の巨大な男が覗きこんできていた。
『こーりゃあ、めずらしい。ちっこいわらべだのぅ…』
「デイダラボッチの六太! この子が怖がってるよ、もうちょっと離れて欲しい」
くっついてくる小さな体から震えが伝わってきて、優希は慌てて叫んだ。
六太が呵呵大笑しながら、ぐうぅと顔を遠ざけていってくれた。
巨人の笑い声が空気を振動させ、痛いくらいにびりびりと耳に響く。
「六太…っ、声おさえて…!」
『おおぉ…、すまんの。体がでかいと、声もでこうなってしまうわ』
「まだ大きいよ」
優希は両耳を手でかばいながら、半ば叫ぶように会話をする。彼の後ろで子どもも、耳をふさいでいた。
『ときに、わらべ』
「わらべじゃない。俺はもう十六だよ」
『十六なら、わらべのうちだで』
「もう、デイダラボッチと人間じゃ比べ物にならないだろ」
『あぁ……?』
とぼけた声をあげ、六太はまた顔を近づけてきた。
『人間……だとぉ』
大音声がすぐそばで響き、耳をふさいでも頭の真にがんがん衝撃がくる。
音も立派な凶器になるのだと、優希は望まないながらも痛感させられた。
『人間、人間……わらべ、お前人間……』
「そうだよ。六太」
『地上中を無用な光で埋め尽くして、おいら達の住処奪った、人間……っ』
デイダラボッチの声が、地を這うように低く尾を引く。
「……六太?」
優希は背に、冷たいものが流れたように感じた。
多少傍若無人なところはあるが、六太は気のいい、穏やかな性格をしている。
会話は声の張りあげなくてはならないが、怒鳴るようなことは今まで一切なかった。
しかし、今の六太にあるのは、明らかな怒りの色。
『人間…!』
六太の拳が振り上げられる。
そばを通りかかった異形のもの達から、悲鳴とも叫びともつかない声があがる。
殴り飛ばされる。
そう思うのだが、優希が避けるより、六太の拳のほうが早い。
衝撃がくると、脳内で危険信号が明滅した時。
ばちっと破裂音がして、目の前が白く染まった。
『おお…』
戸惑ったような声とともに、六太の拳が引く。
そのほんの一部が、黒く焼け焦げたようになっていた。
(……今のって、雷…だよね)
誰が雷を呼ぶなんて事をしたのだろう。
その疑問を答えに導くように、優希の視界の端で、暖かい色の光が揺れる。鬼灯だ。
光を追うように下を見ると、あの子どもがいつの間にか、優希の前に立っていた。
それはまるで、彼を庇うように。