神玉遊戯
闇明かり、そして 1
夜明けの気配が近づく。
やがて明敏の掻き鳴らす琵琶の音も絶え、宴はお開きとなった。
この日にしか会えない知人らと、惜しみ惜しまれの別れを交わす。
やがて異形の者達は、去りゆく夜を追うようにして、てんでに棲み処へ帰って行った。
最後に柳の根元に残ったのは、人間の子二人だ。
宴の後の静けさ。しばらく無言だった。
ためらった末、優希は明敏に、今日の事を聞いてみる事にした。
「あのさ明敏。俺、この前の夜行日で七回目の参加になるんだけれど」
明敏は、爪弾くでもなく、琵琶を膝の上に乗せたままにしている。
「……ああ、もうそんなになるのか。早いな」
「うん。――でね、明敏がはじめて夜行に行ったのって、いつ? やっぱり、誰か一緒に行った?」
尋ねると、明敏は顎に手をやり、何かを思い出そうとしている様子になる。
「…記憶にあるのは、かなり曖昧で……五歳ぐらいだったか。誰か一緒だった記憶はあるんだが、これが不思議なことに、守護妖でも親でもなかった気がするんだ」
「……それ、誰……なの。ちょっと、怖いんだけど」
「怖いような感じの記憶ではないな……」
本当にはっきりとは思いだせないらしい。
明敏の目線が、探るように泳いでいる。
優希は、彼が返答をするのをじっと待った。
そのうちに、明敏がするりと視線を滑らせて、優希の方を向く。
「そうさな。優希、お前に背格好が似ていたかもしれないな」
「……あ、そう、なんだ」
それはきっと、似た誰かではなくて、自分だろうと、優希は見当をつける。
やはりあの小さな男の子は、身体を抜け出した明敏の魂がとった姿だったのだ。
魂の時間軸は、肉体の時間軸に必ずしも同調しない。
それゆえ、前世の記憶を持っていたり、未来を見て予知夢としたりする。
死者であれば、その者の生きていた時代とは、全く異なる場所と時間に生きていた誰かとも、交流することすら可能だ。
ただ、魂が現世に存在するには、器としての肉体が必要だ。
そこから離れてしまえば、たやすく、向うがわに引きずられることになる。
「何もなかったから、よかったけれどさ」
「うん……?」
「今日のは、……明敏らしくないよ。こんな場所で、魂だけ飛ばすのって、危ないの知ってるだろ」
抑えようとしたが、優希は自分の声が震えているのを感じていた。
「……そうだな、油断した。優希が鬼灯の灯りで呼んでくれなければ、もう少し、目覚めが先になっていたな」
そう答える明敏に、優希は掴み所の不確かさを感じてしまう。何かを隠しているのだと、直感が告げていた。
聞きたいのは、今言ってくれた事ではない。
「……そうじゃなくてさっ。俺が訊きたいのは、危ないってわかってて、何でやったのかって事だよ」
「偶然だろう。今日のは、半分事故のような……」
「明敏、鬼灯を持ってなかっただろ!」
強く詰め寄ると、明敏は一瞬、驚いたように目を見張った。
鬼灯は、夜行に参加する者の証だ。
本来は昼の住人になる明敏や優希にとっては、夜に惑い迷わないための、道を照らす灯りともなる。
「…………それが、どうした」
「鬼灯無しで、夜行に加わったら、……下手をしたら魂が彼岸に連れ去られるって、教えてくれたの、明敏だよ」
「…………」