EDEN ~その雨の向こうがわ~
その雨のむこうがわ -5
その日の夜、リアが眠った後に、ロッドは『レムリア』をひもといた。
中身の一部が、何故消えてしまったのか。その理由を探るヒントが、本の中にありはしないかと考えたのだ。
リアは、タイトルを言い当てて以来、この本には触れてこない。
意図的にそうしているのか、あるいは、タイトルしか知らなかったのか。
どちらにしろ、彼女から情報がくる事への期待を、ロッドは希薄に感じていた。
小さなランプの明かりが辛うじて手元だけを照らすなかで、彼は、一ページずつ確認しながら物語を読み進めていった。
主人公となる者の名は、レムリア。とある村の、裕福な部類に入る家庭に生まれた少女だった。
きょうだいは無く、両親と、数人の使用人と一緒に暮らしていた。
彼女は生まれつき体が弱く、そのために頻繁に外出することは出来なかった。
外出するとしたら、本人が強く望み、医者の許可が下り、両親の許しがあって、ようやくといった具合で、多くても月に一度だった。
勉学も遊びも、家の中で出来る範囲で行っていた。
十二歳の冬の日。
レムリアは、両親と医者を、体調が良いから大丈夫だと押し切って、氷雨の降る中に出かけていった。
ロッドは、難しい顔をして、ページの中ほどで途切れている文章を睨む。
隣のページを見ると、そこは白紙だった。
さらにもう一ページめくり、見開きになった右側ページの最下行から、物語が再開されているのを見つける。
消失したのは、およそ三ページ半。それが、消えた幾つかのエピソードの、一番初めだった。
その後、エピソードの抜け落ちは、一つの季節に一度か二度程度の頻度で見つかりだした。
それをひろっていくうち、ロッドはある共通点に気付く。
「…これは」
エピソードの抜け落ちる条件とでも言うべきか。
それが起きる時には、その直前、物語中では必ず雨が降り、その中をレムリアが出かけていくのである。
そして再開部分では、彼女は村近くの草原に立ち、空には虹がかかるのだ。
「何を、意味していると…?」
ロッドは、うめくように低く呟く。
虹にまつわる逸話や伝承の数々が、彼の頭の中で、浮沈を繰りかえしていた。
文面に目を落としたが、答えとなるだろう部分は、ことごとく消えてしまっている。
物語の中では、十五歳になったレムリアが、雨降りのなかを、嬉しそうに出かけていっていた。
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背景画像写真:Photo by (c)Tomo.Yun
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