EDEN ~その雨の向こうがわ~
その雨のむこうがわ -31
放っていた光が消え、『レムリア』はことりと音を立てて、カウンターの上へ降りた。
それは二度と、光を発する事も、ひとりでに浮き上がる事もなかった。
ランダはその本を見つめ、主人公となった少女の事を思った。
表紙の絵には、雨の中草原に立ちすくむ少女が描かれている。
「……レ…ム…リア…」
その名を呼んだのは、ランダではない。
彼女ははっとして、弟の顔を覗き込んだ。
ロッドの唇が、声に出さず、もう一度名を刻んだ。
瞼が震え、ゆるゆると持ち上がっていく。夜空色の瞳が、その下から現れた。
「ロッド! 目が、覚めたか」
「……ランダ姉さん」
ロッドは、ゆっくりと瞬きをする。それからランダを見て、その周囲を見回し、『レムリア』を見つけた。
暮雨(ぼう)の降りしきる薄暗さの中、天へ昇っていく光の粒子の残像が、彼の瞼の裏をかすめる。
つう、と、涙がひとすじロッドの頬を滑った。
「ロッド…」
ランダは、弟の頭を抱え込むようにして抱き締めた。
たった一滴の涙が、彼が再び悲しみを味わってしまった事を、彼女に知らせていた。
ロッドは、震える声で、ようやく言う。
「……姉さん、僕はまた…」
レムリアを、失ってしまった――。
外の雨は降りやまず、そのざわめきが聞こえている。
まもなく、夕闇が満ちようとしていた。
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背景画像写真:Photo by (c)Tomo.Yun
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