EDEN ~その雨の向こうがわ~
その雨のむこうがわ -21
「どうしたのです? 急に」
「貴方が好きなの」
その瞬間、周囲の音が掻き消えたように、ロッドは感じた。聞こえるのは、己の心音のみだった。
彼女の言った事が、すぐに理解出来なかった。
それが心の奥に落ちたとき、嬉しさと同時に、つきりと胸が痛んだ。
ただの人間である彼女が生きられる時間は短い。
近いうちに必ず来るだろう死別が、ロッドの意識の上に浮上したのだった。
「…忘れませんよ」
気付くと、その言葉が驚くほど穏やかに、口をついて出ていた。好きだと返すよりも、ロッドは彼女に、忘れない事を誓いたかった。
雲が去り、日の光がまっすぐに届く。
空にあった雨の気配が、徐々に薄れてきていた。
それからわずか二日の後。
曇り空だったその日の夕方、夢幻図書館に一冊の本が届けられる。
夢幻図書館に収蔵される物語は、実在したものたちの生の記憶。何よりも完璧な記録なのだ。
天使やドラゴンなど長命なものの物語は、一巻から順次図書館に収蔵されていく。
しかし、短命なものの物語は、そのものの死の直前になり、図書館へ収蔵されていくのだ。
それはまるで、死への秒読みを宣告するように。
「…どうして、あの子が…!?」
あまりにも早く、あまりにも突然だった。
それを、ランダとロッドは信じられない思いで迎え入れ、同時に悲しみ、憤った。
二人とも、その物語が収蔵される事になるのは、四十年は先のことだと思っていた。それを紡いだ人は、まだ二十歳にもなっていないのだ。
本のタイトルは『レムリア』。
それは、少女だった頃から夢幻図書館に通っていた、あの女性の名前だった。
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背景画像写真:Photo by (c)Tomo.Yun
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