EDEN ~その雨の向こうがわ~


その雨のむこうがわ -19







 それから大分経ち、小雨の降ったある日、少女は姿を見せた。
 いや、そこにいたのは少女ではなく、一人の女性だった。
 服を着ていてもわかる肉の薄いほっそりした体と、透けてしまいそうなほど白い肌は、彼女に実体を感じさせない。
 ランダとロッドは、彼女に、思わず名前の確認をしてしまった。それほどまでに、美しく成長していた。
「誰かと思ってしまったよ。まぁ、四年も来ていなかったんだ。女の子が、魅力的な女性になるには、十分な期間だね。今年で何歳になるんだい?」
「…あと少しで、二十歳なの」
 女性は少しはにかみながら答えた。彼女がはじめて図書館を訪れてから、七年が経っていた。
「ランダさんも、ロッドも、少しも年をとった感じがしないわ」
「僕らは年をとりませんから」
 ロッドが苦笑しつつ答えた。
「そうなの?」
「一番上の神様が、私達をそういうふうにお作りになったんだ。生れた時からこの姿。不老であり、またとんでもなく長寿だよ。なぁロッド、私達、今年でいくつになったか、わかるか?」
 ランダは、言葉の最後を疑問文にして、ロッドへと向けた。
「ざっと、ゼロが十個くらいはつくのではありませんか? 細かい数は、とうの昔に数えるのなんてやめました」
「いつの間にそんなに経ったか」
「そうですね」
 ロッドが、机上に積まれていた本に、指先で触れる。本は、上から順に浮き上がると、本来収められているべき位置まで勝手に飛んでいき、自ら書架に納まった。
「さて皆さん、ティータイムにしませんか」
「おや、ロッドからいうなんて珍しいな」
「たまにはいいでしょう? せっかく彼女も来ているのですから。紅茶はセイロンにしましょう。ランダ姉さんは、クッキーの用意をお願いしますね」
「今から作れと?」
 ランダが怪訝そうに顔を覗き込むと、ロッドは営業用の笑顔を向けてきた。
「作ったのがありますよね? 先ほど二階に行ったら、上からクッキーらしきものが焼ける香りがしたのですが」
「……用意しよう。プレーンとチョコレート、ゼリービーンズ入りのものもあるぞ」
「さすが姉さん」
「すぐ持ってくるよ」
 ランダは肩をすくめ、博物館のほうへ歩き出した。後姿に、心なしか敗北感の影が落ちているような気もする。
「今回は、ロッドの勝ちだわ」
「負けっぱなしは嫌ですから」
「負けず嫌いなのね」
 すっきりした笑みを浮かべるロッドの肩に、女性がそっと、頭を預けた。








          ―――次へ




 背景画像写真:Photo by (c)Tomo.Yun
 URL http://www.yunphoto.net